「君の膵臓をたべたい」以上の名作!
「君の膵臓をたべたい」で鮮烈なデビューをした住野よるさんの最新作『か「」く「」し「」ご「」と「』を読みました。
驚きました。物語の構成,伏線の張り方,相手の気持ちを「感じ取る」方法のアイデアなど,どれも斬新で非常に作為的(いい意味で)な方法をとっているにもかかわらず,若者の心情を瑞々しく描くという住野さん独特の味は消えていません。
「君の膵臓〜」以降,「また,同じ夢を見ていた」「夜のばけもの」と,住野さん独特の味付けをしながらも,割と平易な文章でいい意味でのわかりやすさとともに表現してきたと感じていたのですが,この作品はひと味もふた味も違います。
何回も前のページを読み返し,自分のなりの解釈をしながら読み進めるという作業を伴いました。手は込んでいるのに,余計な「ノイズ」を感じることなく,作者のいわんとしているところが伝わってくる,非常に不思議な作品となっています。
「君の膵臓〜」は,そのテーマやラストの衝撃性と,住野さん独特の透明感ある登場人物の描き方で評価されたと感じていますが,本作はその良さを引き継ぎつつも,「読み込んでいく楽しさ」を兼ね備えた秀作になっていると思います。
個人的には「君の膵臓〜」よりも文学的に評価できる,非常に優れた作品だと感じます。もしかすると「今年を代表する」と言える作品になるかも…という予感さえしています。
個性の違う5人の登場人物の葛藤を描く
個性がそれぞれ異なる高校生男女5人の群像劇ともいえる本作。
5人それぞれの視点で描かれる5章から構成されています。それぞれの章のタイトルは『か「」く「」し「」ご「」と「』なのですが,それぞれの登場人物の感情の読み取り方によってその表記が異なります。この部分が一つの肝となっていますので,是非実際手にとって確かめてみてください。
「自分の自信がもてずに冴えない者」「表面上はクールだったり脳天気だったりする者」等,登場する5人はそれぞれ個性にあふれています。しかし,大学受験を控えた若者が,様々な悩みを抱えているのは当然のこと。
5人が互いに刺激を与え,与えながら自分自身を見つめていく様子を実に爽やかに,力強く描いています。しかも,そこに住野さんの独特の謎かけのような言葉遊びがこれまでの作品以上に散りばめられており,
「あれっ,前の章でこれに関する伏線があったな…」
と感じ,ページを遡って読みたくなるのです。
5人それぞれの役割を,
「各仕事←→かくしごと」
として表題と掛けるあたりが,しびれます。
また,表題の最後が『「』で終わっているのも,エピローグ(作品中では「エピロオグ」)の最終末を読めば納得。最後の最後まで楽しませてくれますよ。
読了後すぐに,
「近いうちにもう一回読まなければ!」
と強く感じさせられたのは久しぶりかもしれません。
作家「住野よる」の伸びしろ
「君の膵臓〜」以降,住野さんは立て続けに新作を発表しているように見受けられます。特に,前作「夜のばけもの」からはあっという間の本作発表だったこともあり,
「内容が薄くなっていたら残念だなあ…」
と心配をしていました。しかし,そんな心配を吹き飛ばす「会心の一撃」っぷり。あっぱれでございます。
特に,書き味をこれまでとは変えながらも,住野さん自身の「よさ」が消えていないあたりに,住野さんの作家としての力量を感じました。これからも魅力的な作品で我々を楽しませてくれることでしょう。
「書き急ぐことなく」がんばってくださいね。