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50おやじが,お気に入りについて気ままにつぶやくページです。

読了 「蜜蜂と遠雷」〜重厚さと引き替え…瑞々しさの欠落〜

直木賞」「本屋大賞」ダブル受賞の話題作

 史上初めて「直木賞」と「本屋大賞」をダブル受賞した話題作,恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」を読みました。

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 評判が極めて高かっただけに,大きな期待をもって読みましたが,私個人の感想としては,一般の方々とは異なるものになるかもしれません。期待が大きかっただけに…

 

難しい題材に真正面から

 本作は,「国際ピアノコンクールに向けた若者達の群像劇」です。

 自分のピアノも持っていないのに観衆の度肝を抜くような天才的な演奏をする少年,かつて「天才少女」ともてはやされた後に挫折を経験して新たにピアノと向き直そうとする少女。華があり「ジュリアードの期待の星」として参加する少年,年齢的にも最後のチャンスに向け自分の夢と葛藤する青年…若い音楽家達を実に見事に描いています。

 また,審査員側からの視点でもこのコンクールを捉えており,「ピアノ」に魅了されている音楽に携わる人々の思いが幾重にも波のように押し寄せてきます。

 

 一般には全くといっていいほど知られていない「ピアノコンクール」という題材を選択し,ここまでの大作に仕上げた恩田さんの熱量に感心するばかりです。

 

重厚さ,洗練させた言葉の選択,音を表現する語彙の豊富さ…

 総ページ500ページ超,しかも各ページ二段組という構成のまさに超大作。

 読み終わってまず感じるのは,その「重厚さ」です。扱っている題材が「ピアノコンクール」「クラシック音楽」ということもあるのでしょうが,登場人物の心情の描き方に品があり,厚みがあります。大きな波のようにアップダウンする描き方ではなく,一定の振れ幅の中にあえて押さえているような描き方…ここが良さでもあり,問題点であるとも感じます。これについては後ほど…

 また,恩田さんという作家の有能さを感じるのが,言葉の選択です。一つの感情や事象を表現するときに,

「そう表現するか〜!」

と感心するような言葉を選択していることが多く,これが前述した「重厚さ」にも繋がっているのだと思いました。この方,いったいどれだけの「表現方法の選択肢」をもち,どれだけ熟考して言葉を選んでいるのだろう…と,空恐ろしくなるほどです。

 さらに本作の題材上,当然ピアノの曲や演奏中の音に関する記述が非常に多く割かれているわけですが,この音に関する表現の多様さたるや,舌を巻かざるを得ません。「〜のような音」という表現を,我々一般人は何種類くらい用意できるものでしょうか?

「よくこんなに音の表現を使い分けることができるなあ〜」

と,その語彙の豊富さに途中からは感心するばかりでした。まあ,こちらにも問題点を感じたのですが…

 

読み手が何を期待したいのかによって評価は割れる

 本作,重厚ですし,取り上げている題材も挑戦的。洗練させていて純文学としての評価も高く,一般の読み手にもお薦めできるという点で,「直木賞」「本屋大賞」のダブル受賞にも納得の名作です。

 ただ私個人としては,期待が大きかっただけに残念だったことの方が大きく心に残りました。

不満点①「若手音楽家の心情の描き方に瑞々しさがない」

 ここは恩田流の「重厚さ」と引き替えだなと感じました。それぞれの登場人物がそれぞれに葛藤を抱えており,「コンクール」というぎりぎりの場でしのぎを削っているのですから,もっと生々しい若者の声,思いをダイレクトに表現してもらいたかった。

 表面上があまりに柔らかすぎるのです。もちろん,どっしりとした書きぶりの内側に熱い思いを読み取ることが出来るのですが,私としてはいちいち読者が足を運ばなくても感じ取れるような表現にしてもらいたかったということです。

 そうすることで,重厚さと躍動ぶりが相まって,もっと生き生きとした文体になったのではないかと考えます。

 

不満点②「曲調,音楽についての説明がくどすぎ」

 本作における「音を表現する語彙の豊富さ」のすばらしさについて前述しましたか,これが徒になっている部分もあります。

 予選から本選へと,実に多くの曲に関する記述があるのですが,はっきり言ってくどすぎ。後半部分では正直飽きてきました。その部分を読み飛ばしても,全く本作の評価には影響しないと言っても過言ではないのです。語彙や表現方法は実に豊富なのですが,ただ説明するために書いているだけ…とも感じられました。

 その分を,登場人物の心の描写に割くことは出来なかったのかなあ…

 特に「本選」や「本選後」の登場人物の描写に関して尻すぼみの感は否めません。余韻を味わわせるために,あえて多くを書かなかったということかもしれませんが,私は少々納得がいきません。

 

恩田陸さんの力量は感じられる

 やや鈍重で狭窄なイメージルあるものの,恩田陸さんの力量,才能を感じ取ることの出来る力作であることには変わりありません。

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 また,「蜜蜂」「遠雷」というキーワードが登場人物の心の根幹に関わってくる部分と関連しているなど,恩田さんらしいファンタジー的な要素も含んでいます。

 最近で一番の話題作ですので,まだ読んでいらっしゃらない方は手に取ってみてはどうでしょうか?