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読了 池井戸潤「花咲舞が黙ってない」〜水戸黄門的勧善懲悪型大衆迎合経済エンターテイメント…でも面白い〜

池井戸潤の真骨頂「花咲舞が黙ってない」〜人気の理由がよく分かります〜

 テレビドラマでおなじみ「花咲舞シリーズ」の最新刊がいきなりの文庫版で発売されました。

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 …「花咲舞シリーズ」と便宜上書きましたが,元々そのようなものは存在せず,テレビドラマで評判になってからの後付けなんですよね。
 詳細については以前本ブログで書かせていただきました。

 読んでみると,なぜ池井戸作品がこんなに支持されるのかが分かります。これは売れるわけですよ。そしてそこには「しかし…」という致命的な点も隠されていると感じました。
 それでは読了後の個人的な意見を…

 

後付け感満載の大衆迎合臭満載…そこに安心感があるんだろうなあ 

 もともと「花咲舞」という登場人物ありきでシリーズ化されたわけでなく,「銀行狐」等の池井戸さんお得意の銀行を舞台とする短編集の中にたまたま登場した「花咲」という人物にフォーカスして日テレのドラマがつくられました。

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 しかし,本作品は,あたかも「花咲舞」が主人公として以前から存在していたかのような描き方で読み手を包み込んでしまいます。

 時はバブルがはじけてから10年ほど。銀行の再編成が盛んに行われていた大変革期そのものです。東京第一銀行事務部臨店指導グループの花咲舞と同僚の相馬健が中心となって進むストーリー。ドラマをご覧になった方であればすぐに入り込める世界です。

 がっ…!読み始めてすぐに気付く異様なほどの違和感。その正体は,
「ドラマの世界が小説のベースにすり替わっている」
ということです。花咲の言動からは女優の「杏さん」しか想像できませんし,強いものに巻かれる相馬さんは「川上隆也さん」以外の何者でもありません。

 これではまるっきり「ノベライズ本」です。本来,ドラマでも映画でも「原作本」をどのように脚色していくかということに観る側の楽しみがあるわけで…。池井戸さん本人に,ここまでドラマを意識されてしまうとなんだかすっかり冷めてしまいます。

 しかし,一般の「花咲舞シリーズ」を好む読者層からすると,ドラマをトレースした水戸黄門的勧善懲悪型ストーリーは「異様なほどの中毒性,安心感」を生むのかもしれません。ここが最近の池井戸さんに対する評価の分かれ目なんですよね〜。

 文章そのものは大変評価できます。読みやすいですし,事件の起伏,登場人物の心情や立場等も短編という限られた文字数の中でうまく表現されています。やはり池井戸さんという人はただ者ではないと感じされられます。

 

仮面ライダー大集合かよっ!「半沢」と「花咲」のコラボ!

 内容は伏せながら行きますが…

 途中で危うく飲んでいるコーヒーを吹き出しそうになる部分があります。
 なんと,東京第一銀行のライバル行,産業中央銀行のあの方が登場します。そう,「半沢直樹」です。両行の統合が争点となる中,この半沢は,最後の最後まで重要なキーマンとしてストーリーに大きく関わって来ます。

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 何じゃこりゃ。まるで夏休みの「仮面ライダー全員集合」みたいなこの感じ。いやー,いくら何でもやり過ぎでしょ。もはや「あの顔,あの台詞」がこだまするわけです…
 前述した「花咲舞ありき」の文章作りといい,半沢の登場といい,私からいわせれば,
「池井戸さん,どれだけ大衆迎合に進んでいるんですか?」
と声を大きくして警鐘を鳴らしたい気分です。なんだか知りませんが,この本を楽しみにしていたのに裏切られた感じ…とでもいいますか。もうちょっと真摯に作品に向き合っていただきたかったなあ。まあ,「これはこれで楽しいじゃないか。」という方々も相当数いらっしゃるとは思いますが…

 と,読了後に文庫の帯を見るとこのような記述が…

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 くそっ,はじめっから「コラボありき」じゃん。

 

再度池井戸さんにもの申す

 以前,「アキラとあきら」の書評でも書かせていただいたことがいよいよ深刻化してきているようです。

 まずは「勧善懲悪型」のストーリー。先が読めてしまうストーリーは,いくら筆力があってもいずれ飽きられてしまいます。そろそろ「悪を懲らしめ丸く収まる」というところから脱却していただきたい。以前の池井戸さんは,必ずしも幸せな結末だけではない仕事の厳しさも書かれていました。「辛めの池井戸」に振っていかないと正におなかいっぱいです。

 次は本作に関する不満。「昇仙峡玲子」いう特命担当の調査役が登場するのですが,彼女の描き方が実に曖昧です。
「出てこなくたっていいよね?」
というレベルで,池井戸作品の中では飛び抜けて「失敗」といえるものとなっています。本作で「半沢」が担った役割を彼女に担わせるとか,やりようはいくらでもあったはず。池井戸さんがどのような意図で彼女を登場させ,どのような面を描きたかったのか,ご本人から伺ってみたいほどです。

 と,不満も高まっているものの,やはり池井戸さんは人を引き込むほど筆力を持っている希有な作家さんだと思います。
 だからこそ,迎合しすぎることなく,重厚な作品を仕上げていただきたい。最近は甘めの作品が多いですので。…これは東野圭吾さんにも共通する心配事ですが… 

 

花咲舞が黙ってない (中公文庫)

花咲舞が黙ってない (中公文庫)